and R個展をおえて
とても暑かったandRでの個展が終わりました。
お越し下さった方、お店やカフェで盛り立ててくださった方、本当にありがとうございました。いろいろな出会いがあり、お話できたことが楽しかったし、あたたかく背中を押していただいたように感じます。直接お会いできなかった方も本当にありがとうございました。またお会いできるように、私も頑張っていきたいと思います。
どうもありがとうございました。
今回の窯たきの話。
ちょうど1年前に引っ越して、仕事は9月から再開したので、夏の窯たきは初めてでした。
前は住居と工房は同じ敷地の別棟でしたが、今度は建物の都合上、ひとつ屋根の下なので、窯たきの熱いこと。
また猛暑の窯たきのせいもあるのか、サウナ室だって数分はいられるのに、窯場は30秒といられない。2階は地獄。
「もう夏の個展はやりたくない」と、 and Rのオーナーに何度ぼやいたか。
そんななかでの窯たきでしたが、とても収穫の多いものでした。
ちょっと専門的で、かなり長い話になりますので、もしお時間があれば。
窯をたくときには、デジタルの温度計と、数字ではなく、熱量で測る「ゼーゲル」というものと二つ使います。
ゼーゲルの原料はアルミナと珪石と粘土で、それをコーン状に固めたもので、その倒れ具合で、今窯の中はどのぐらいの状況かと判断します。だいたいのところまでは温度計を目安にして、後半のどこまで焚くか、どこで火を止めるかということはゼーゲルで判断します。温度計の数字はあくまで目安で、釉薬の溶け具合、流れ具合はゼーゲルの倒れ具合をみて、想像します。釉薬はストライクゾーンの広いものも、すごく狭いものもあり、それを踏まえて窯詰めして、ストライクゾーンの狭い釉薬もちょうどいい焼き上がりになるように、窯の覗き穴からゼーゲルをのぞいて見て、判断する。
そのぐらい絶対の信用をしているゼーゲルが、今回、ちゃんと反応しない(ような気がする)。そろそろ倒れていいころなのにあんまり倒れない。焼きが甘くてもダメだし、でも強すぎてもダメだし、このままゼーゲルを信じて焚き続けようか、でもやっぱり強い気がすると思い、覚悟して火を止めました。
翌々日、温度の下がってきた窯を恐々開けて見ると、ゼーゲルの倒れ方はやっぱり甘かった。「やってしまった」と思ったけど、窯出しをしていくと、むしろ強いぐらいでした。ゼーゲルに不良品ってあるのかな?と思い、窯屋さんに相談してみると、そういう話、聞いたことある、と。
窯屋さんが以前にいろいろ調べてみた結果、原料のアルミナ(アルミニウム)はそのままだと溶融度は660℃だけど、酸化して酸化アルミナになると2000℃以上に上がるそうで、工房に置いていたゼーゲルが年数がたち、酸化して溶融度が上がって、倒れにくくなったんじゃないか、という推論を話してくれました。
50本入りのゼーゲルは2-3年経っているので、道理は通っていると思い、まずは原料屋さんに新しいゼーゲルを注文しました。(箱じゃなく、バラで)
次の窯たきはすぐだったので、今までのゼーゲルを使用し、ゼーゲルを信用しすぎず、自分の経験と勘で焚き、窯出しは逃げたいぐらい怖かったけど、「失敗しても、全滅はない。万が一全滅しても、命をとられることはない。」と言い聞かせながら、窯を開け、まずまずの結果に安堵しました。そして、翌日個展の搬入。二日間在店して、最後の窯詰め、窯焚き。
今度は新しいゼーゲルが届いたので、新しいのと、今までのと2本入れ、のぞき穴からは新しいのが見えるようにセット。窯焚きは猛暑日だったせいもあるのか、今度は温度計の調子もよくない。いつもより温度も上がりづらい。のぞき穴から見える新しいゼーゲルもどこまで信用していいかわからない。自分を信じよう。
窯たきの結果はまずまず。2本並べて入れたゼーゲルは新しいのはよく倒れていて、今までのゼーゲルはまだぜんぜんで、明らかな違い。
窯屋さんの推論当たっているんじゃないか?
断定はできませんが、すごく大きな収穫。窯屋さんに報告したら喜んでくれた。
焼き物をはじめてから22年。指導所や師匠のところで新しいことを学んでいるときのような成長を感じられないので、おんなじところでずっと足踏みしているような気になっていたけど、自分を信じて無事窯たきできたこと、少しは何か積み上げているのかもしれないとちいさな自信になりました。苦しかったけど、とても貴重な経験でした。
and R 初日、オープン前の店内。